凡人たちのクリエイティブ #5

#5 「Endless Summer Records」

なぜインディーズとはいえ音楽レーベルを立ち上げたのか。

新会社で音楽関連の仕事をやりたかったというのは当然なんですが、この話のそもそものルーツは2000年前後にまで遡ります。

細かく話すときりがないくらい重要なテーマで、専門家の方が話したほうがわかりやすいと思いますが、ここでは自分の体験として簡潔に書きたいと思います。

最初に音楽配信について触れると、1998年ごろにMP3フォーマットによるPC上での音楽のやり取りが普及し、翌年にはデジタル著作権管理(DRM)の技術が実用化されました。2002年に当時は待望のiPod第2世代のWindows版が出て、自分も真っ先に入手してその便利さを堪能していました。

その頃はNapstarなどのファイル共有ソフトが流行り海賊版も横行していましたが、2003年にはiTunes Music Store(現iTunes Store)が誕生し、違法配信の攻勢に歯止めをかけるとともに、正規の音楽配信というものを一気に加速させていきました。このころからすっかりMacユーザーになっていましたね。

自分はレコード、カセットテープ、CD、MDなどを体験してきた世代なので、今の状況はユーザーとしては本当に便利だし、もう絶対に元に戻れない。今も商品としてカセットテープを作ったり、趣味でレコードを聴いたりしていますが、やっぱり仕事柄外をウロウロしていることが多いので、日常の音楽との付き合い方としてはそれらは別枠の時間です。

そういった形でどっぷりと音楽配信の便利さを堪能している一方で、音楽業界が激変していくのを冷静に見続けてきました。

90年代はCDのセールスがミリオン、ダブルミリオンなどの言葉が飛び交い、いったいどこの誰がそんなに買っているんだろうって感じでした。たまに実家に帰った時に当時60近かった親がそういうCDを買っていたのを見て、なるほど、と思ったものです。

しかしそんな時代があったことが信じられなくなるくらい、2000年代に入ると売上枚数が下がっていきます。

当時編集していた雑誌の記事で、音楽CDやDVDのランキングのページを担当していたので、毎号記事を作りながらその変化に驚いていました。

何かやばいぞ、という意識が会社中にも、自分の中にも生まれていたのを覚えています。当時はスティーブ・ジョブズやAppleや音楽業界のことについて書かれた書籍もたくさん出ていたので、勉強のために読み漁っていました。

そして、やはりというか当然というか、出版界にも数年遅れて、電子化の波が押し寄せました。当時面白かったのは、電子書籍なんて読みづらい、紙の本のフォーマットは超えられない、など、今考えると自分も含めた古い世代の人たちが、自分たちを安心させたいがための意見があちこちで聞かれました。

一方で、古い世代に入る人の中でも、電子化の波は止められない、紙の本はどんどんなくなるだろう、といった意見もちゃんと出ていました。

そこからは出版社が追いつけないほどの速さで電子化や、スマホの普及が進んでいき、事態はどんどん深刻になっていきます。特に後者、スマホの普及は出版界には大きなダメージを与えたと思います。

それは、本や雑誌と接する「時間」を奪うという、致命的なダメージです。紙の本を買わない代わりに電子書籍を買おう、ということにはならない。

皆、スマホでニュースを読んだり、SNSを見たり、ゲームをしたりするのに忙しくて、電車内で本を読む人が皆無になったのを目の当たりにしました。新聞を読む人も本当にいなくなりましたね。皮肉なことに通勤時に読む文字量は増えたなんて記事も見ました。

当時は総武線に乗って飯田橋まで通勤していたのですが、本を読んでいる人を見つけるとたいてい同じ会社の人や同業者でした。最近は一時期よりは本を読んでいる人が増えている気もしますが。

そして2017年。今や、音楽も本も定額制読み放題というサービスが当たり前のように存在しています。家では妻が雑誌読み放題のサービスに入っていて、これ最高だよ、と勧めてきます。

ざっとおさらいしたところで話は冒頭に戻るのですが、だいぶ状況は似てきているとはいえ、音楽業界の今を知ることは出版業界の未来を知ることに近いと思っていたので、音楽レーベルを作ってみることにしたわけです。雑誌Rocketが音楽と親和性が高いこともあります。

起業した時に書籍流通を音楽流通の会社に頼んだのも、タワーレコードさんやHMV&BOOKSさんなどに雑誌を置きたい、という明確な意図があったからでした。

大手の取次さんを通して全国津々浦々の書店に本を送っても、我々のような零細出版社では返品で地獄を見るのがわかっていたからです。

まあそもそもダメ元というか、ある意図があって大手の取次さんにもいろいろ交渉してみましたが、まったく相手にされませんでした。たいてい途中から担当者は不在、折り返しの電話ももらえない(笑)。

これは書店が激減し、出版不況が深刻になっていた2016年時としては想定内のことで、特に腹が立ったりもしませんでしたが。

そこから音楽流通、書籍流通を同時にやりながら、時代の流れに乗ろう、見極めていこうということになったわけです。お客さんの見えるところにピンポイントに。そして刊行後に声をかけてくれた書店さんとは直取引で。あと、全国の読者の方へのフォローとしてネット通販。

音楽CDは発売日によくリリースイベントをやっていますが、雑誌Rocketでもタワーレコードさん、HMV&BOOKSさん、新星堂さんなどで発売日にイベントやらせてもらったりして、新しい形を模索しています。

今年の8月6日には渋谷のLOFT9さんで、Rocket Base1周年イベントをやります。永原真夏さんの写真集やRocketに関するイベントになります。またZINEの販売なども行なう予定です。

結論としてはRocket Baseはいろんな人にやめたら、と言われながらも、紙の本やCDを作ることはやめない、ということになります。

ふー、長かった。次回は「G-shelter」(予定)について。

 

 

 

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